夏目漱石講演集【現代日本の開化】----逆のものさし講選定本 [4316800271] :
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夏目漱石講演集【現代日本の開化】----逆のものさし講選定本

864円

夏目漱石著 ◆最近特に思うのですが、本にも波動というか、 情熱みたいなモノを、読んでいて確実にこちらに伝わってくる本と そうではない本があるようです。 その中でも圧倒的に感じるのが、講演録かまたは、 語り口調の本だと思っています。【おれの師匠】や【語る大拙】、 内村鑑三の【後世への最大遺物】などはその良い例でしょう。 著者の思いが、ちょっと昔の方でも時間に関係なくその熱さは メリメリト感じ取れるのです。そういう本で素晴らしい本がないかと 探していたらありましたよ! 夏目漱石の講演集が!!! 明治四十四年の八月の暑い日に、 和歌山で漱石が講演した「現代日本の開化」という題目が 書名になっております。 もし、いま夏目漱石が生きていたとして、その講演を聞けるとしたら、 世界中からどんだけ人が集まるのでしょう。 そう想像してみると、この本が実に有り難いものに感じてまいります。 さて、漱石の講演は、こんな出だしではじまります。 「はなはだお暑いことで、こう暑くては多人数お寄り合いになって 演説などをお聴きになるのはさだめしお苦しいだろうと思います。 ことに承れば昨日も何か演説会があったそうで、そう同じ催しが 続いてはいくら中らない保証のあるものでも多少は流行り過ぎの気味で、 お聴きになるのもよほどご困難だろうとお察し申します。 が演説をやるほうの身になってみてもそう楽ではありません。(笑) 中略 抑揚頓挫波乱曲折の妙を極めるだけの材料などは薬にしたくも 持ち合わせておりません。とそう言ったところでなにもただボンヤリ演壇に 登ったわけでもないので、ここへ出てくるだけの用意は多少準備して まいったにちがいないのです。 もっとも私がこの和歌山へ参るようになったのは当初からの 計画ではなかったのですが、私のほうで近畿地方を所望したので 社のほうでは和歌山をその中へ割り振ってくれたのです。 おかげで私もまだ見ない土地や名所などを捜る便宜を得ましたのは 好都合です。そのついでに演説をする・・・・・・のではない演説のついでに 玉津島だの紀三井寺などを見たわけでありますからこれらの古跡や名勝に 対しても空手では参れません。お話をする題目はちゃんと 東京表で極めてまいりました。(笑) その題目は「現代日本の開化」というので、現代という字は下へ持ってきても 上へ持ってきても同じことで、「現代日本の開化」でも「日本現代の開化」 でもたいして私のほうではかまいません。 「現代」という字があって「日本」という字があって「開化」という字があって、 その間へ「の」の字が入っていると思えばそれだけの話です。 なんの雑作もなくただ現今の日本の開化という、こういう簡単なものです。 その開化をどうするのだときかれれば、実は私の手際では どうもしようがないので、私はただ開化の説明をして後はあなたがたの ご高見にお任せするつもりです。 では開化を説明して何になる?とこうおききになるかもしれないが、 私は現代の日本の開化ということが諸君によくおわかりに なっているまいと思う。 おわかりになっていなかろうと思うと失礼ですけれども(笑)、 どうもこれが一般の日本人によく呑み込めていないように思う。 私だってそれほどわかってもいないのです。(笑) けれどもまず諸君よりもそんな方面に余計頭を使う余裕のある 境遇におりますから、こういう機会を利用して自分の思ったところだけを あなたがたに聞いていただこうというのが主眼なのです。 どうせあなたがたも私も日本人で、現代に生まれたもので、 過去の人間でも未来の人間でもなんでもないうえに現に開化の 影響を受けているのだから、現代と日本と開化という三つの言葉は、 どうしても諸君と私とに切っても切れない離すべからざる密接な関係が あるのはわかりきったことですが、それにもかかわらず、 お互いに現代の日本の開化について無頓着であったり、 またはあまりハッキリした理会をもっていなかったならば、 万事に勝手が悪いわけだから、まあ互いに研究もし、 またわかるだけはわからせておくほうが都合がよかろうと思うのであります。」 なんだかニヤニヤしながら話す漱石の顔が思い浮かぶようです。 ちなみに「(笑)」は、わたくしがそうじゃないかと思い、かってにつけました。(笑) そして漱石は(力強く)聴衆に向かってこう言い放ちます。 「開化とは人間活力の発現の経路である」 この人間活力には二通りあり、それは「活力消耗の積極的な趣向」と、 「活力節約の消極的な趣向」があることを ユーモアをまじえて、聴衆に語りかけるのです。 「活力節約の消極的な趣向」によって 科学が発展したということを下記のように語ります。 「多く歩きたくないときは、歩かないで用を足す工夫をしなければならない。 となる理窟です。つまるところは人間生存上の必要上何か仕事を しなければならないのを、なろうことならしないで用を足して そうして満足に生きていたいというわがままな了見、と申しましょうか またはそうそう身を粉にしてまで働いて生きているんじゃ割りに合わない、 馬鹿にするない冗談じゃねえ!という発憤の結果が怪物のように 辣腕な器械力と豹変したのだとみれば差し支えないでしょう。 この怪物の力で距離が縮まる、時間が縮まる、手数が省ける、 すべて義務的な労力が最少低額に切り詰められたうえにまた切り詰められて どこまでも押していくかわからないうちに、かの反対の活力消耗と 名づけておいた道楽根性のほうもまた自由わがままなのできるかぎりを 尽くして、これまた瞬時の絶え間なく天然自然と発達しつつとめどもなく 前進するのである。」 この後、現代日本の開化について熱く聴衆に語りかけていきます。 最後には、強い迫力みたいなものを感じ聴き入ってしまいました。 当時、直接この場にいた人たちも たぶんそうとう心に火がついたのではなかろうかと思います。 だって読んでいる私がそうだったからです。 この他にも、「私の個人主義」というお題で大正三年に学習院で行った講演、 「中味と形式」で明治四十四年の講演、 「模倣と独立」で大正二年に行われた講演などが、 実にいきいきと読む者の魂を揺さぶってきます。 現代に生きる私たちには、そんじょそこらでは聞けない 漱石先生の大講演会です。どなた様も有り難いお気持ちになって、 是非、この講演会に参加してください!お待ちしております。 あまりにも貴重な講演ですので、「逆のものさし講」の 選定本にいたしました。

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